バール - Bar2009/09/22

イタリアの街中では周囲を見回せば必ず「バール」がある。先日行ったマッターホルン(イタリアではチェルビーノ)では、標高3317メートルの場所にまでちゃんとあった。しかもロープウェイを降りたとたんに探す人が多いのであろう、「500メートル先にバールあります。営業中」との看板が目立つところに立っている。パッと見回してもバールが見当たらないような場所でよくこの手の看板を見かける。それほどバールがないことに耐えられない、ということであろう。

英語のBarが語源だが、イタリアの「バール」は「バー」とはかなり異なる役割を持つ。強いて言うなら喫茶店とファーストフード屋とコンビニと立ち飲み酒場をあわせたような、イタリアの日常生活に欠かせない存在である。

イタリアでコーヒー = "Caffè" といえば自動的にエスプレッソを指し、それを道すがらバールで立ち飲み、まさに「一杯引っ掛ける」というのみ方をするのが一般的。日本のように喫茶店でゆっくりするのとは、かなり趣が異なる。

昼時には近所で働く人たちが、作りおきのパニーニやパスタを温めたものをワインと一緒に食べ、食後に一杯エスプレッソを飲んでさっと職場に戻る。カウンターにはチョコやミントなどのちょっとした菓子類、タバッキ(タバコ屋)が併設されている店ではタバコはもちろん、電車やバスのチケット、宝くじも売っている。地方に行くとバールがよろずやと化していて、ちょっとしたコンビニ並の品揃えである。

もちろんここで昼間飲むのはエスプレッソだけ、というわけではなく、エスプレッソを基にした各種のアレンジコーヒーがある。これらは大抵メニューがあるわけでなく、店によってあるなしも変わり、季節によるものもある。最初は周りが注文するのを見ながら徐々に覚えていった。

それらをさらに自分の好みにあわせて「あつめ」「ぬるめ」、ミルクがいるかどうか、入れるミルクの温度、ふりかけるのはカカオの粉かシナモンの粉か、お酒をたらすなら何か、混ぜて渡すか、別の入れ物に入れて渡すかなど細かい注文もする人もいる。

ちなみに、カプチーノは空腹を満たすためのものらしく、イタリア人は朝ごはん代わりにブリオッシュ(クロワッサン)と一緒に注文する。午後、ましてや夕食後には決して飲まない。

もちろんコーヒー以外にもミネラルウォーター、ジュース類などもおいてある。紅茶はまだ最近飲む習慣ができたばかりで、ハーブティーなど同様ティーバッグで出てくるし、「うちは置いていない」と言われたこともある。

夜のバールはやっと英語の「バー」の機能が登場、アルコール類が主体となる。ミラノでは夕方になるとハッピーアワーといわれる時間帯があり、飲み物を注文すればカウンターに並んだ食べ物が食べ放題。これで日本と比べて遅めの夕食までおなかを持たせるそうだが、メニューが充実しているところなら、イタリア人と比べて夕食の量が少ない日本人はこれで十分お腹一杯になる。

さて、バールマン、バリスタにとって、なじみ客の好むオーダーをおぼえているのは当然のこと。出勤時など多くの客でごったがえす店内で、すばやくなじみ客の顔を見つけ「いつものマッキアートかい?」と声をかけ、返事を聞く前にエスプレッソマシンをセットし始める。

私の場合、朝はカプチーノ、昼はスプレムータ、午後はマッキアートと、時間帯によってオーダーが変わるが、それもちゃんと覚えてくれて、私の顔を見ると時計をとっさに見ながらオーダーを判断している。日によっては違うオーダーをしたいこともあるが、居並ぶ客の前で違うオーダーをするのは彼の顔をつぶすような気がして、そんなときはわざわざ他のバールに行くこともある。

また「お客様は神様」ではなく、店主がその名の通り"主人"で「店が客を選ぶ」イタリア。地元のビジネスマンやおしゃれなセニョリータでにぎわうちょっと雰囲気のいいバールにラフな格好で行ったときには、最初は「外国人の一見さん」としてかなり冷たい扱いを受けた。

それでもそこは豆も売っているので、豆を買いがてらたびたび通っているうちに、ある日突然「やあ、いらっしゃい!」と店員全員の笑顔とともに挨拶された。さらに注文したマッキアートには、何度か他の客に出しているのを見た小さなチョコレートがついてきた。さらにはコーヒー豆のスタンプカードまで作ってくれる。やっとここでも馴染み客のステイタスを得たらしい。

コメント

_ ほんじゃろか ― 2009/09/30 13:43

8月20日のAFPの日本語の記事でしたか、スペインの「バル」で出された突き出しのオリーブが不味いと言って大暴れした男の記事がありました。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1261574311&owner_id=19533761(←mixiの日記)

それには、スペインの「バー」で男が暴れた、と書かれていたのです。多分、スペインを知らない翻訳者が英語から和訳したのでしょうね。

でも、英語圏では「バー」、スペイン語圏では「バル」、イタリア語では「バール」…たしかに、紛らわしいですよね…。

日本でも、昔は「バー」と言えば、ケバケバしい女性がいる店でしたが、最近は飲食店が多様化して消えてしまったようです。

これを、某業界では「イナイイナイ・バー」と呼びます。

_ のら☆ ― 2009/09/30 18:01

ミラノでも「酒場のカウンターからビスケットを盗んだ移民が店主に袋叩きにあって殺された」というのが、移民問題を象徴する出来事として大きなニュースになりました。もちろん「酒場」とはバールのことですが、事情を知らなければ、なぜ酒場のカウンターにビスケットがあるのか?謎でしょう。

丁度昨日、日本の会社と関係のあるイタリア人に「『銀座のバーにつれて行く』といわれたら気をつけろ」という話をして、日本のバーとバールの違いを説明したところです。下戸の私がうっかり「行きつけのバー」の話を日本でして、やはりびっくりされたことがあります。しかも、昼間の話として・・・。本当に紛らわしい。

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